わふうの人が書いてます。

iOSアプリケーション開発、BLEのファームウェアとハードウェア試作のフリーランスエンジニア。

12月17日 大垣 iBeaconハッカソン

iBeaconハッカソンとは

2013年12月17日に、岐阜県大垣市 ドリーム・コア2Fメッセで、パブリックな建物を使った、おそらく世界でも初のハッカソンが開催されました イベントページ: https://www.facebook.com/events/772613819421404/。ハッカソンは、”ハック”と”マラソン”を組み合わせた造語で、開発者やデザイナが集まり集中的に共同作業をするイベントを表す言葉です。

iBeaconは、Apple社がiOS7で導入した位置と近接検出技術です。このiBeaconを利用した製品開発やサービス提案には、ビーコンと呼ばれる電波を発信するハードウェアや、ビーコンの信号にあわせたユーザ体験の設計など、ソフトウェアだけで開発が完結していたアプリケーション開発とはまた異なるスキルが必要になります。大きな期待が寄せられているO2Oや決済といった単語とからめて、記事に取り上げられるiBeaconですが、実際に実物のビーコンのハードウェアを手にして、その振る舞いを体験した人は、まだ極少数です。

iBeaconがどのようなものかは、実際に手に取り、体験してみればよくわかります。そこで、iBeaconの課題や可能性、そして面白さを、参加者間で共有するアイディア・ハッカソンが企画されました。ハッカソンは、岐阜県大垣市にある情報産業の拠点、ソフトピアジャパンにあるインキュベート施設ドリームコアの建物1つをまるごと使いました。建物のあちこちに計30個のビーコンを参加者に配置してもらい、それをアイディアを実施した場面と見立て、実際に振る舞いを確かめ理解を深める体験を、共有しました。

ビーコンは、(株)アプリックスから提供を受けました 中日新聞および岐阜新聞で日本初の「iBeaconハッカソン」に関する記事が報道 http://www.aplix.co.jp/?p=7891

ハッカソンには、東京からの日帰り参加が難しい大垣という場所で、しかも年末という時期にもかかわらず、30名弱が集まりました。北は北海道、西は石川県、東はカリフォルニア、南は兵庫県と広い地域から参加者が集まりました。そのスキルや背景知識も、半導体回路設計、ハードウェア開発者、無線技術者、iOSアプリケーション開発者、ウェブ開発者、それに経営者にバリスタと、ユニークで多彩な集まりとなりました。

プログラム

ハッカソンのプログラムは、以下のとおりです。午前中にiBeaconの基礎知識などのイントロダクションを行い、お昼ごはんを食べながら自己紹介をしました。午後からは、実際にビーコンを手にして、iOS SDKの振る舞いや、電波の信号強度の変化を、遊びながら、実体験しました。その後、チームに分かれて、アイディアスケッチとディスカッションをおこないました。

  • 11:00〜12:00:イントロダクション
  • 12:00〜13:00:昼食 (お弁当を食べつつ、自己紹介)
  • 13:00〜13:30:ビーコンで遊ぶ
  • 13:30〜15:30:チームごとにアイデアだし
    • アイデアスケッチ#1(アイデアスケッチ:20分+共有:10分)
    • アイデアスケッチ#2(アイデアスケッチ:20分+共有:10分)
    • 投票とディスカッション(20分)
  • 15:30〜16:00:チーム間で共有(兼休憩)
  • 16:00〜17:30:ビーコンを実際に設置してチーム内で実験
  • 17:30〜18:30:チームごとに発表
  • 18:30〜19:30:全体でディスカッション
  • 発表

イントロダクション

イントロダクションのプレゼンテーション資料です。

アイデアスケッチ

アイディアスケッチの手順を説明するプレゼンテーション資料です。

チームのプレゼンテーション

5チームが、それぞれのアイディアと実験結果をプレゼンテーションしました。

最初のチームは、車の盗難に備えたビーコンを発表しました。
クルマが盗まれると、ビーコン信号が出ます。盗まれたクルマを特定できるUUIDなどの情報をネットに登録しておけば、だれかのiPhoneがそのビーコンを検出した時に、通知される仕組みです。
発信器を、クルマのダッシュボードや助手席に置いて、車内から車外に電波が出るかを実験をされていました。
朝起きたら駐車場にあるべき自分の車がない、クルマを盗まれた実体験をもとにしたプレゼンテーションで、迫力がありました。

iPhoneの置き忘れ防止のキーホルダー(keyfob)は、Bluetooth Low Energyが利用される、よくある商品群です。
しかし、それは自分のiPhoneとだけ接続するもので、自分のiPhoneからしか、使えないものです。
不特定多数にID情報を発信し続けるビーコンの特性と、バックグラウンド状態でビーコンを検出できるiPhoneの機能、そしてそれをソーシャルの要素と掛けあわせて、自分では探せないものが探せるようになるところに、大きな可能性があります。

2つめのチームは、決済などのサービスです。今まさに提案している案件が、実際のiBeaconに触れてみると不都合があることがわかり、もしもこれを知らずに開発をはじめていたとしたら、ぞっとすると話されていたのが、印象に残りました。

3つ目のチームは、街路にビーコンを設置しておいて、自動車のフロントウィンドウにビーコンに紐付けられた情報をAR表示する、というものです。
クルマが早く移動しすぎると、iOSがビーコンを検出する前にビーコンの到達範囲を行き過ぎるかもしれません。ドリームコア前の街路にビーコンを設置して、そこでクルマを時速20km/50kmで走らせて、振る舞いを実験されていました。ビーコンの信号モニタアプリの画面を動画撮影して、記録に残していました。

4つ目のチームは、クルマの運転中に心臓が停止した状況を想定しました。実際の車を使ったデモンストレーションでは、心臓が停止したらビーコンを送信するウェアラブル機器を、ビーコンの電池を手で出し入れして模擬しました。受信側のiPhoneに、イヤホン端子にLEDを接続して、受信信号強度でそのLEDの光り方を変化させる機能を実際に製作されていました。車自体に、ビーコンを検出したら路肩に移動する機能を入れることもありうる、と言われていました。あの短時間で、まさか実際のアプリまで作るチームが出てくるとは、予想外でした。

5つ目のチームは、新人教師が地元のおばあちゃんを訪問する場面を想定されました。表の目的は、おばあちゃんに挨拶をすることですが、裏の目的としておばあちゃんの安否確認を仕込まれている、細かい設定です。デモンストレーションでは、建物の4箇所にビーコンとおばあちゃんの似顔絵を設置して、それぞれのあばあちゃんを訪問しました。そのデモンストレーション・アプリは、訪問時の情報をネットワークを通じてウェブ側に投げていました。その滞在時間をヒートマップ表示するウェブアプリまで作られていました。今回は、実装までする時間はとてもないと思っていましたが、超速でここまで作られていて、さすがというか、驚きました。
動線検出は、従来の手段では実現ができなかった、iBeaconという新しいものを売り込む強力な謳い文句になるのでしょうが、まさに、それを実証するデモンストレーションでした。

写真

30個もビーコンが集まると、丼に入れて持ち運びたくなります。冬場なので、回路が静電気で破壊されないように、モジュール1つ1つを、静電防止ビニールで包みました。

iBeaconを使う美濃市の観光アプリの、デモンストレーション場面です。iOSデバイスを持っていない方に貸し出す機器は、iPhoneでは毎月回線料金がかかるため、ハードウェアの購入金額だけですむiPod touchやiPadになります。しかしそれらにはGPSが搭載されていませんから、観光地案内に必ず欲しい地図表示に適しません。iBeaconを取り込むことで、位置が検出できるようになり、これを解決できるわけです。

今回使用したビーコンの発信器は、アンテナに基板実装されたチップアンテナを使っています。
この写真は、丼をアルミ箔で覆い、パラボラアンテナのようにできるかな、と試しているところです。また、丼の底に波長よりも小さい穴を開けて、その穴から漏れ出る近接場の成分で、NFCのようなタッチが再現できるかもしれません。電波を出すものは、アンテナの種類や、アンテナの周りに反射板を設置して、電波の放射パターンをいじるのも、ユーザ体験を作り出す手段として、おもしろいのです。

ガラスの壁に貼り付けたビーコンです。壁や部屋の材質が、鉄筋コンクリートだったり、鉄だったりすると、また振る舞いが異なるのでしょうか。

振り返って

FacebookのBluetooth Low Energyの公開グループで募集したこともあってか、iBeaconに強い興味関心をすでに持たれている、スキルのある方たちが集まっていました。

雑談

美濃市でiBeaconを利用した観光アプリを出されている、トリガーデバイスの佐藤さんの体験談は、聞いていて、なるほどと思い、またそうなるかと爆笑もする、楽しい話でした。
例えば、電波の発信器の設置作業は、人から見えない場所を探して、手のひらサイズの電気回路を取り付けます。これが、はたから見ていると、爆弾魔が爆弾を設置しているのと見分けがつかない、というのは、たしかにそうなのでしょうが、笑ってしまいました。

実際にやってみると出てくる、あとになって考えたら当たり前なのかもしれませんが、いろいろな出来事や工夫が、参考になりました。

距離の推定、電波の振る舞い

iBeaconを実際に使ってみると、思っていたのと違う、という声が上がっていました。
距離が取得できる、と聞いていたが、その距離がどの程度の精度で取れるのか、そしてImmediate/Near/Farの実際の値が、想像とは大きく違ったようです。

ビーコンにくっつけるほど近づけないとImmediateの反応にならず、私も50cmくらいでImmediateになるのだろうと思い込んでいたので、驚きました。
またレジにビーコンを設置してた場面を想定して、手にiPhoneを持った状態で、レジの方を向いて、次に背後(ビーコンが背面)を向くと、受信信号強度がぐっと小さくなる、という体験もありました。電子レンジにも使う2.4GHzの電波は、水で大きく減衰しますから、人体で減衰したのでしょう。

実験に使ったドリームコアには、1Fと2Fに大きな吹き抜けがあり、また外壁がガラスです。ですから、通常のビジネスビルとは異なり、ショッピングモールを模擬することも可能だったでしょう。

2Fにビーコンを設置した場合、2Fのビーコンが見通せるならば1Fでもビーコンを受信できるが、影になった途端に受信ができなくなったという体験もありました。
2.4GHzは直進性が高いため、見通し範囲とそうではない領域で受信信号強度が大きく変化します。
携帯電話でも2GHz帯を利用する基地局の配置には、周囲の環境が複雑に絡み合うために、実測をして細かい調整をします。
iBeaconでも同じように、壁や建物による減衰や回折、そして反射波によるフェーディングが生じます。

実は、2.4GHz帯の電波発信装置を利用した動態把握は、古くからある研究/実験テーマです。検索すると、総務省の人の動態把握等のためのユビキタスネットワークに関する調査検討会 が出てきたりします。もともとGPSのように、位置を検出する技術としては開発されていないものを、電波の受信強度だけで、位置推定に流用しようとすると、技術だけでは解決が難しいことが、いくつも生じます。技術だけではなく、運用や利用方法の工夫を組み合わせること、また計画当初から、iBeaconは全てを解決する魔法の杖ではないと理解して、その特徴を押さえた利用場面に落としこむこと、が重要だと思います。

Passbook的な使いかた

Passbookを日本で最も最初に実運用した方が懇親会で言われていたのが、”例えば駅で表示するPassbookがあったとする。毎日の通勤で駅に来るたびPassbookが表示されて、非常にうざったい。”という、Passbookの致命的な振る舞いを指摘されていました。iBeaconはPassbookと連携します。ですから店頭にiBeaconを設置すれば、そこを通るたびにクーポンを表示させたりできるわけです。ですが、その振る舞いはGPSのものと同じですから、やはりうざったいものになるでしょう。

Passbookは位置に入ったことをトリガーにして表示させる機能がありますが、実際に位置に関連づけたコンテンツをユーザに表示する利用場面では、その表示が適切か、を判断するロジックを入れることが、必要になるのでしょう。iBeaconでアプリケーションを反応させて、アプリ自体でクーポンを表示させるとか、あるいはアプリからPassbookにクーポンを発行させるなら、そのロジックをアプリ側に入れることができるわけです。

とてもインテリジェントな、Passbook的な何か、あるいはPassbookができるわけです。

ショッピング以外の用途

iBeaconの一般向け紹介では、販売店での商品紹介や支払いでの利用が紹介されていますが、そのようなショッピング以外の用途にも大きな広がりが期待できます。iBeaconの信号は、バックグラウンドで常時モニタできること、そしてiPhone5以降の機種であれば、ほとんど電力を消費しない特徴が、これまでにない利用場面を可能にします。

ちょっとしたハードウェアとアプリ開発者

ハッカソンの後にあった懇親会では、バスの人検出装置が出力するパルスをAndroid端末で計測して、データをクラウドに上げるものを作りたいのだが、ハードウェアが出来る人がいない、という話をされていました。ハードウェア技術者の視点からは、あまりに単純すぎて、お金をもらうことも難しそうなものですが、スキルがなければ実現ができないものではあります。ちょうどその場に、そのようなハードウェアを作れる方がいたので、お話をされていたようです。

ハードウェア - スマートフォン - ウェブ・サービスは、これまでいくつもの案件があり、そしてほとんどが失敗に終わってきました。iBeaconもそうですが、特に従来になかった新しいものを開発する場面では、関係者全員が、全体を俯瞰した視点を持ち、それぞれのスキルを持ち寄り、利用シーンを想像して、協業することが、成功には欠かせません。しかし、ハードウェアに関しては、スキルがある人はいても、会社に囲われてしまい、自分から外にでる人が(東京ですら)いないようです。

遊びを通して

iBeaconは、ハードウェア - スマートフォン - ウェブ・サービスの要素ごとに工夫出来る余地があります。それらを掛け算していけば、利用範囲は無数に広がります。それには、しっかりとした知識と、分析、そして分野ごとの切り分けが、共有できていて、メンバーそれぞれの専門スキルが掛け算されることが重要です。

ハッカソンでの、体験と遊びを通して、試すこと、分析すること、理解すること、結果を話すこと、そして共有することをやりきった先にあった、背景知識や分野が異なるメンバーがチームとなり全体を俯瞰しつつ、結果を出されていた今回の動きは、iBeaconを手段として、自分たちの手で作り上げる、スマートフォンのあるちょっと未来の魅力ある一場面を生み出す、何かに通じると感じました。

謝辞

会場の手配またハッカソンの企画および運営は、IAMAS 准教授 小林 茂さん、そしてトリガーデバイス佐藤さんの尽力によるものです。トリガーデバイスは 近づくだけで美濃観光案内 近距離通信規格を用いスマホに のビーコン設置とアプリケーション開発も担当されています。今回のハッカソンでビーコンの振る舞いを確認するアプリケーションも提供を頂きました。
このような時間と場を設けていただいたお二人に、また岐阜県の担当者の方々に、重ねて感謝いたします。